研究内容(一般向け) RESEARCH for the public

年間2億人の感染者と45万人もの死者をもたらすマラリアは、熱帯地域を中心に流行しており、エイズ・結核と比肩する3大感染症の1つです。マラリアの原因となる病原体はマラリア原虫(Plasmodium属原虫)であり、媒介蚊(ハマダラカ)の吸血によりヒト体内に侵入して寄生し、病気を発症します。マラリア原虫は1880年に発見され、科学者たちにより140年間、研究され続けています。その成果は過去4度のノーベル医学生理学賞の受賞に輝き、今なお先端的な研究が進められています。しかし、前述のように未だマラリアの撲滅には至っておらず、難治性感染症として国際医療上の深刻な問題と位置付けられています。

 

-マラリア撲滅に向けた世界的潮流-

マラリア原虫はウイルス・細菌とは異なり、私たちと同じ「真核生物」です。このため、ウイルス・細菌よりも遥かに複雑なやり方でヒトの細胞内に寄生し、増殖して病原性を示します。また「性」を持ち、オス・メスの原虫が受精することが子孫を残すために必須です。更にマラリア原虫は巧妙なやり方で免疫から逃れたり、薬剤に耐性を示します。これら全ての現象は原虫が持つ遺伝情報に起因します。そのため、ゲノム解析黎明期の2000年代初頭に真核生物の病原体として初めて全遺伝子(ゲノム)情報が解読されました。現在はゲノム情報に基づき、マラリア原虫の生存戦略の全貌を分子レベルで理解する試みが世界的に進められています。これによりマラリア原虫のライフイベントの弱点を暴くことで撲滅への新規戦略を確立することが目標とされています。

 

-私たちのアプローチと目標-

私たちはマラリア原虫において、遺伝子発現制御の根幹を担う分子である「転写因子ファミリー」を世界に先駆けて発見しました。現在、この転写因子ファミリーと関連分子を対象に高度な遺伝子操作技術とUNIXコンピューター解析・次世代シーケンサーを使った大規模遺伝子解析技術を駆使して、研究を進めています。寄生・増殖・性・免疫回避・薬剤耐性の根幹となる遺伝子発現の制御機構について解明し、マラリア原虫の生存戦略の理解とその弱点を発見することが、基礎研究者である私たちの目標となっています。
 

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